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上着を脱いでタートルとシャツをたくし上げた俺の胸に葵は聴診器を当てる。
「息を吸って……止めて……吐いて……はい、後ろ向いて」
言われた通りにおとなしく従う。
「はい、息吸って……吐いて……吸って……吐いて……はい、こっち向いて」
瞳孔の対光反射も、きちんとペンライトを使っての診察だ。
「どうだ? 死んでるだろ?」
「……」
葵は黙ったまま、笑い出したいのを必死で堪えてるような表情をしてる。不気味だ。何を言われるんだろう。
最後に3回、丁寧に血圧を測って診察終了だ。
葵はドヤ顔で俺に宣告した。
「圭、あなたマジでヤブ医者ね。あなたまだ死んでないわよ」
はあ?
「ええーっ!? どういうことですか!?」
横で見ていた陽奈が素っ頓狂な大声を上げた。
「心臓の動きは完全には止まってないし、呼吸も時々はしてるわ。変だと思ったのよ。いくらゾンビだって言ったって、心臓や呼吸が完全に止まってたら、そんなに脳が動くはずないし。それに手の傷からも、ちょっとだけど出血してたし。血圧もゼロじゃないわ」
葵は興奮気味に話しながら隣の部屋に行って、病院から持って来た荷物をごそごそ漁っている。
俺は慌ててもう一度頸動脈や手首で脈をとろうとするが、やはり脈はない。呼吸も、してないよな?
「いや、やっぱり脈はないぜ。呼吸もしてない」
何だか先生に間違いを指摘された生徒みたいに、どうしても言い訳じみた言い方になってしまう。
「山野先生、それ、お医者さんとして、どうなんですか? 『俺はもう死んでる』って言ったじゃないですか」
陽奈がまたこっちを睨んでいる。
「いや、あの、灯台下暗しと言うか……医者の不養生というか……」
「意味不明です」
そう言い捨てながら陽奈も口元には笑いがにじみ出ている。
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