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「とりあえず、これやりましょう」
葵が隣の部屋から持ってきたのは小型のAEDだ。心臓が止まりかけてる時に蘇生のために使う、いわば電気ショック装置だ。
しかしAEDは、本人が既に意識を失ってる状態で使うのが前提だ。意識がある状態で使うと激痛と衝撃でかえって死にそうになる。
「い、いや、俺、意識あるんだけど!」
慌てて主張するが、葵は聞いてくれない。
「しょうがないでしょ。あなた男なんだし我慢しなさい」
「いや、そんなの男も女も関係ないだろ! 性差別良くねえよ!」
「先生、往生際が悪いですよ」
陽奈も突っ込んでくる。
「いや、だから俺はもう既に往生してるんだよ!」
「はい、つべこべ言わずそこに横になりなさい。たぶん心室細動の状態になってるから、AEDやったら普通の心拍に戻るかもしれないでしょ」
「そこに横になれって、この床にか?」
「仕方ないでしょ。嫌だったらタオルか何か敷きなさいよ」
仕方なくタオルを何枚か床に敷いてその上に横になった。葵は手際よく俺の胸をはだけさせ、電極を貼り付ける。
「心臓がちょっとだけ動いてるんなら、かえってAEDしない方がいいんじゃないのか? よけいに心停止にならないか」
「はいはい、死んでる人はべらべらしゃべらないの。このAEDに簡易心電図がついてるから、ボタンを押すかどうかはそれを見て決めたらいいでしょ」
必死に抗う俺を葵は苦笑しながら受け流す。
「分かった。分かったけど、やる時にはやるって言ってくれよ。いきなりやるなよ。心の準備が要るからな」
「ほら、もう、しゃべってたらノイズで心電図見れないじゃない。いい加減もう観念して黙りなさい」
とうとう黙らされてしまった。
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