二日目 第十二話 半分生きてる

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二日目 第十二話 半分生きてる

葵は心電図に見入っている。陽奈も肩越しにのぞき込んでいる。 「おい、どうなんだ?」 沈黙に耐えかねて俺の方から声をかける。 「圭、心臓はあなたの方が詳しいわよね。この心電図について解説してくれない?」 葵がAEDの装置を持ち上げて液晶パネルを俺の方に向ける。目の前に俺自身の心電図が表示されている。 「……何じゃこりゃ」 思わず口に出てしまった。そこには何とも解釈に困る、不思議な心電図が流れていた。 パッと見ると心電図はフラットだ。何だやっぱり心臓止まってるじゃん、と思いきや突然、心拍っぽい波形が出て、またフラットに戻る。 しかもその心拍っぽい波形というのが実に奇妙な波形だ。 なだらかな山が二つ連なっている、というよりも、お椀を二つ並べて伏せたような形、といった方が近いか。そしてその二つの頂上にはご丁寧に小さなスパイク状のピークが付いている。 これは、この形は……見た人の十人中十人が、女性の胸、つまり『おっぱい』を上から見たところ、と表現するだろう。 しかもフラットな基線がしばらく続いた所に前触れもなく唐突におっぱいが現れて、またフラットに戻ってしまう。そしてしばらくしたらまたおっぱい。フラット、おっぱい、フラット、おっぱい、その繰り返しだ。しかもなかなかの巨乳。 どんな不整脈の波形とも違う。そもそも、心房が収縮し、心室が収縮し、それが解消する、そういう通常の心臓の動きを反映していない。心電図の理屈に合ってない。いかに俺の脳内がピンク色だったとしても、こんな心電図はあり得ないだろう。 それに何よりも納得いかないのは、俺は巨乳推しじゃねえよ、ってことだ。俺はまず胸より先に脚に目が行く真性の脚フェチだ。どうせヘンな心電図なんだったらせめて美脚っぽい心電図に…… ま、それは関係ないか。 とにかく、いろいろな意味で俺は言葉を失っていた。
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