二日目 第十二話 半分生きてる

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「どうなの?」 今度は葵の方が沈黙に耐えかねて俺に尋ねる。 ああ、これはおっぱい心電図だよ。 って言いそうになったが、そういう軽口がウケる雰囲気ではない。一生懸命、理性的に解釈してみよう。 「刺激伝達系がちゃんと働いてないことは確かだな。心房も心筋もバラバラに活動するからこういう緩やかな山のような波形になるんだろう。ただよく見ると前半の方がちょっと振幅が小さくて勾配も緩いから、前半が心房、後半が心室の活動を反映してるんだと思う」 「一応、心臓としては機能してるってこと?」 「極めてゆっくりと、しかも時々しか動いてないがな。普通これでは生命を維持できない」 「じゃあ、何であなたは生きてるのよ」 「いや、生きてるとは言えないだろ」 「生きてるわよ! 極端な徐脈だけど心拍もあるし、呼吸も時々してるし、対光反射だってわずかに残ってるわ」 「だから、本来それぐらいの心拍や呼吸じゃ生きられないはずだ。俺の身体の細胞はもう酸素を使わず、お互いを共食いし合って動いてる。死んでるのと同じだ」 「じゃあ、あなたの『死』の定義は、身体の細胞が酸素を必要としないかどうかってことなの? 心臓が動いてても死んでるって言うの?」 「いや……そういうわけじゃないけど」 「あなた、前は全然逆のことを言ってたわよ。『身体の細胞さえ生きていれば、その人は死んだことにはならない』って。そのためにこんなゾンビウイルスを作ったんじゃなかったの? 宗旨替えしたの?」 「……」 俺は何も言えなくなってしまった。
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