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そうだ……俺はそもそも、一体何のために「細胞の不死化」なんて馬鹿なことを考えたんだろう。
さっき、葵と遭ったばかりの時に言ってたよな。移植待ちの子供達がどうとかって。その辺のことは論文にも一切書いてなかった。実験ノートにもなかった。
何かいろいろ引っかかってるんだが……さっぱり思い出せない。葵にずばり訊いたら良いのだが、「そんなことも忘れたの!?」ってまたショックを受けそうで何となく訊き辛い。
その時、
「これ押すんですか?」
俺たち二人の微妙な空気を案じたのだろう。陽奈がタオルを投げ込んでくれた。AEDのスイッチに手をかけて笑っている。
「押しちゃっていいわよ。この人、死んでるらしいから」
「いやいやいや、いい子だから、それは止めてくれ。もっと死んでしまう」
「山野先生は半分生きてて、半分死んでるってことですよね」
「そうだな。俗に言う『ハーフゾンビ』の状態ってことだな」
「死んでないなら、それは生きてるってことよ」
葵は意地でも俺が生きてることにしたいらしい。そして壁の外に連れ出したいらしい。
しかし俺がゾンビになってることに深刻な罪悪感を抱いているらしい彼女の心の内を思うと、もうそれ以上は抗えない。
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