二日目 第十三話 指輪とパスワード

3/6
前へ
/220ページ
次へ
俺と葵。最近はいったいどういう関係になってたんだろう。 俺が葵を振り切って渡米してしまっても、葵の方は俺のことをあれこれ気にかけてくれてたみたいだ。だから俺が窮地に陥った時に、すぐにそれに気付いて手を差し伸べてくれたし、親のコネを使って俺に就職先まで世話してくれた。 ずっと俺のことを想ってくれていたんだろう。 一方、俺の方も、別に他の女性がいるわけでもなさそうだし、昔の写真を捨てずに大事に持ってたり、こうやって婚約指輪をまた着けてたりするところを見ると未練たっぷりだ。 というかここに来て、婚約指輪の刻印を大事なパスワードにするとか、起動に必要なUSBのロックを彼女に託すとか、もう完全にデレデレじゃねえか。まあこんな女優さんのような超美人が一生懸命こっちを想ってくれてるのに放っとく男はいないだろう。 ……えい、もう、考えてたら照れてくる。何で葵はこんな冷静なんだ? とりあえず、パスワード入れてしまえ! かちゃかちゃかちゃ……たん! リターンキーを押す手に無駄に力が入ってしまう。 見慣れない文字列がひとしきり流れた後にOSが起動した……と思ったらいきなりエディタが起動し、テキストファイルが表示された。 「葵へ まずこれを読むこと」 トップにはそう書いてある。 「スクロールしてみてよ」 そこで止まっている俺に、横から液晶画面をのぞき込んでいる葵が言う。俺は↓キーを押して一行一行、文章を表示していった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加