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葵、ここまで来てくれてありがとう。
今、これを読んでくれてる君の横に、俺、ゾンビ化した俺はいるかな? もしいるなら、俺の最後の実験は一応成功したことになる。
まあ、記憶を失ってたりして、今の俺との連続性は断たれているかもしれない。でもそいつは紛れもなく俺自身だ。適切な刺激があれば過去の記憶はある程度取り戻せるはずだ。
もしそこに俺がいないなら……たぶん俺の死体が大学構内のどこかに転がってるはずだ。もし可能なら遺骨の一つも拾ってくれると嬉しいが、無理はしてくれるな。
さて。
君は全く信じてくれなかったが、俺と俺が作ったウイルス、正確に言うと『ヒト5型アデノウイルス改』が、R国、C国、それにA国とI国の諜報機関、あるいは軍関係者から狙われてきたっていうのは、これまで何度も話した通りだ。
電波な話だと思われても無理はない。でも今だったら信じてくれるだろう?
最初のうち熱心だったのはR国とC国だ。
彼らはそれぞれ巨乳の美女を研究助手とか大学院生として俺の近くに送り込んできて、必死で俺を籠絡しようとしたが、俺が巨乳なんて見向きもしないガチの脚フェチだということを、連中は知らなかったようだな(笑)。
俺が日本に帰ってきてからはI国の動きが活発になってきた。
I国の連中の厄介なのは、自らは動かず、テロリストを焚き付けて、あの手この手でアプローチしてくることだ。しかも困ったことにテロリストの多くは頭が悪いし乱暴だ。やることが下品なんだ。
しかし今から1ヶ月ほど前、I国が裏から動かしているはずのテロリスト集団が、実は最近、I国の指示通りに動いていない、勝手な動きをしているという恐るべき情報が入ってきた。それを教えてくれたのはA国の軍事機関だ。
それまで俺にアプローチしてきた他の国や機関はどこも、身の安全と素晴らしい研究環境を保証するからうちに来てくれ、生物兵器の研究をしてくれ、ついでにウイルスもちょうだい、そういう風に話を持って来てた。
しかしテロリスト達は違う。奴らは端的に生物兵器が、今ここにあるウイルスが欲しいだけだ。その気になれば俺を殺して奪って行くだろう。
奴らがI国のコントロールを離れて勝手に動き、俺とウイルスを狙ってる……こんな恐ろしいことはない。
俺は死を覚悟した。
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