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二日目 第十四話 最後の実験
しかし、妹を助けることのできなかった俺にとって、葵はこの世で唯一、絶対に守らなければならない存在だ。葵を守るためなら全世界を敵に回しても良い。
だから俺は、自分自身とウイルスを売ることにした。
テロリスト達にかって? いや、さすがにそれはない。奴らは全く信用できないからだ。
I国でもない。テロリストを焚き付けるだけ焚き付けてコントロールできないような頼りない連中も信用できない。
俺が連絡をとったのはI国とテロリストの動きについて警告してくれたA国の軍事機関だ。もちろんA国の奴らもあまり信用はできない。ただテロリスト連中ほど馬鹿ではない。ある程度の取引はできる。
俺はA国の奴らと契約をした。
……ウイルスの情報とウイルスのサンプルを奴らに渡す。そして俺自身も3ヶ月以内に準備を整えてA国に渡り、今後は向こうで生物兵器の研究に専念する。もちろんA国に渡る時には葵も一緒だ。
……その代わり、今すぐ葵の身辺に、それとなく、しかし強力なボディガードを配備してもらう。
……また、これらの内容は全て俺が『生きている』ことが条件だ。俺が死ねば全て無効になる。
そういう契約だ。
葵、ここ数日の間、君の周囲に見慣れない外人がいなかったか? もし見かけたらそれは俺がA国に依頼したボディガードだ。本当は俺自身が君を守ってあげたいが、俺では何のガードにもならないからな。
A国の奴らは俺にもボディガードを付けるべきだと強く主張したが、それは断固断った。そこまで奴らを信用はできないし、身動きがとれなくなるのも困るからだ。
葵の身辺に警護が付いたことはテロリストの連中にもすぐ分かったようだ。そして、それがA国のボディガードで、俺がA国と取引したのだということにも気づいたようだ。
連中からはすぐに口汚い脅かしのメールが送られてきた。
「今からそっちへ行ってお前を殺し、ウイルスをその場ですぐ拡散してやる。脅しじゃないぞ。本当にやるからな」
今、テロリストの連中は猛烈に焦っているだろう。何せ葵には手出しできなくなった上、俺がA国に渡航してしまえば、もう連中がウイルスを手に入れるチャンスはない。
焦りまくった奴らはもう、葵を拉致ってどうだとか面倒なことはしない。直接俺を狙うはずだ。何せ俺自身は丸腰でその辺をふらふら歩いてるわけだから。
そして俺を殺してウイルスを奪ってしまえば、なおさら葵を襲う意味なんかない。俺が死ねば契約の効力が切れてA国の庇護からは外れるが、その時にはもう葵は安全だ。
これで葵の安全は確保できた。
後は、いつテロリストの連中が俺の目の前に現れるか、だ。
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