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「そういう経緯があったから、向こうに行っちゃってからしばらく音沙汰なかったんだけど、私も婚活パーティーにでも行こうかどうか悩んでる頃に、この人からまたメールが来るようになったのよ」
葵は、もう俺は放っておいて陽奈と女子トークしてる態勢だ。陽奈もうんうんうなずきながら聞いている。
「この人SNSしないからメールでね、自分がどんなすごい研究してるかとか、国際学会で賞もらったとか、自慢話ばっかり書いてきて、何よこの馬鹿、って思ってたの」
「いますよね~、そういう男子」
「まあでも、向こうの研究機関って、生き馬の目を抜くっていうか、本当に実力主義で競争が激しくって、嫉妬とか足の引っ張り合いとか凄いって聞いてたから、『ああこの人、元カノの私ぐらいにしか自慢話できないのね』って思って、相手してあげてたの」
「葵先生、優しいんですね」
「ありがと。でもね、だんだん変なこと言い出したの、この人」
「え、どんな?」
「どこかの国の諜報機関が接触してきたとか、CIAが何か言ってきたとか、メールが検閲されてるとか、ハッキングされたとか、電波なことね」
「えー」
陽奈が俺を見る目がさらに訝しげになった。止めてくれよそういう言い方。
「でもね、この人が作ったウイルスが、生物兵器としても有用だということが分かって、この人の研究を批判する人が増えてきたの。だからだんだん追い詰められた雰囲気になってたのは確かだと思う」
「へええ」
「私、この人が書いた論文は時々読んでたけど、だんだん文章に勢いがなくなったというか、批判されても防戦一方で議論になってなくって、明らかに『元気ないな』っていう感じになってきてたの」
さすが付き合いの長い元カノ、全てお見通しだったようだ。
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