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「それで、ここからがようやっと1ヶ月前の話ね」
ここまで既に十分ディスられてしまった俺に発言権はない。あくまでガールズトークを横で聞かせてもらってる情けないおっさんだ。
「この人が日本に帰ってきて、理学部で仕事するようになって、それからもちょくちょく二人でご飯食べに行ったりはしてたのよ。よりを戻したっていうほどのこともなくって、あくまで友達付き合いでね」
「ふーん」
陽奈はちょっと疑わしそうな目で俺を見ている。
「もう電波なことを言うこともなかったし、元気そうだったから、私も安心してたの。でね、1ヶ月ぐらい前、9月の連休の頃だったかな、『大事な話があるから研究室に来てくれ』って言ってきたのよ、この人が」
「へええ」
「私も、もう30歳をだいぶ過ぎちゃって、友達も大半は結婚しちゃったし、女医ってなかなか普通には結婚できないし、この人との関係は微妙なままだし、やっぱりいろいろ考えるじゃない。何の話かなって」
「ですよねえ」
陽奈は深くうなづいている。聞き上手なんだな、この子は。
「それで私、午後からお休みとってドキドキしながらこの人の研究室に行ったの。で、何の話かなーと思ったら、また電波な話だったのよ。もうガックリきて」
「あああー、それはガックリですよね」
と言いながらまた陽奈がこっちを睨んでるよ……とほほ。
「自分は狙われている、とかまたそんな話で、しかも私に協力してくれっていうのよ。ああまた病気が再発したのかと、私は正直うんざりな感じだったの。だから、一つ約束をしたわ」
「約束……ですか?」
「あなたの言うことに協力してあげるけど、3ヶ月経って何事も起らなかったら、必ず精神科を受診してね、って。そういう約束して、それでとりあえず話を聞くことにしたの」
「ああ、なるほど。そういう約束ですね」
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