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しばらく沈黙が流れた。
「だから私、さっきこの人に謝ってたの。でもね、私ね、さっきICUにいた子たちにも、カンファレンルルームにいる先生たちにも、ゾンビになった人たち、亡くなってしまった人たちみんなに謝らないといけないのかもしれない」
「そんなことないと思いますけど……どうしてですか?」
「私がこの人の研究を止めるべきだったのよ……せめてこの人の言ってることを信じてあげて、一緒に何らかの対策を考えてあげるべきだったんだわ。そうしたらこんなひどい事は起こらなかったかもしれない。こうなったのは私のせいなのよ」
「いや、葵、それはないぞ」
葵がまた涙声になってきたので、俺は慌てて割って入った。
「俺だ。責任があるのは間違いなく俺だ。100%俺だ。お前が一生懸命止めようとしてくれたのに、俺が突っ走ったんだ。ゾンビ化ウイルスを作ったのは俺だ」
「ううん、少なくともあなたが殺されてゾンビにされてしまったのは私のせいよ。当直明けで寝ちゃった日も圭から連絡なかったのに、次の日に私、自分の仕事を優先したのよ。圭との約束を守らなかったのよ。あの時点ですぐあなたの研究室に行っていれば、何かが変わってたかもしれないのに……」
「だったら葵、この後で行こう、俺の研究室に。そしてあのパソコンを起動してくれ」
「……これを使って?」
葵は胸のポケットからUSBメモリを取り出して俺達に見せた。何の変哲もないスティック型のメモリだ。
「そうだ。それで十分約束は果たしてもらったことになると思うぜ。だって俺にとって約束の一番重要な部分は、お前に生き残ってもらうことだったんじゃないかな」
「そうかしら……」
「そうさ。それにお前の話を聞かせてもらってちょっと見えてきたよ。テロリストなのか誰なのかは分からないが、誰かが、磁気嵐で世の中が混乱しているのに乗じて俺のウイルスを播いたんだ。俺の頭を殴ったのもそいつらだろう。本当に責めるべきはそいつらだろう?」
「そうね……」
「あのパソコン、昨夜俺が電源を入れてみた時にはログイン画面すら出なかった。お前が来てくれないと起動しないんだ」
「分かったわ。どっちにしてもこの後、私はあなたと一緒に行くわ。あなたの身に何かあったら研究室に行ってパソコンを起動するというのが約束だったから」
「ありがとう」
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