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二日目 第八話 トラックに乗って
「それより……」
葵は陽奈の方を見ながら俺に訊いた。
「陽奈ちゃんをこれからどうするつもりなの? 連れ回してたら危ないじゃない」
「そのことなんだ。何とか安全な場所に送り届けてやりたいんだが、大学のキャンパスは隔離壁で取り囲まれてしまっててどうにもならず、病院まで来れば何とかなるかと思ったけど、ここも封鎖されてるんだな」
「そうよ。完全封鎖よ」
「どこか外に出られる所はないかな」
「屋上にヘリポートはあるけど、ヘリが常駐してるわけじゃないしね」
「羽でも生えてない限り無理だな」
「っていうか、あなたはどこから病院に入ってきたのよ」
「臨床講義棟につながってる地下通路だ」
「ああ……確かにそんな通路あったわね。そこからは出入りできるのね」
「あくまで壁の内側だけどな」
「……壁の外に連絡を取れるといいんだけど電話も通じないし、携帯もネットもまだ復旧してないわね」
スマホを取り出し、確認するように少し操作しながら葵が言う。
「まあ、連絡とれたとしても、ちゃんと救出活動につながるかどうかも分からんがな。よっぽど上手にやらないと黙殺されてしまう」
「そうね。あの銃を持った連中は、ここを隔離・封鎖するためにはいくら犠牲者が出ても構わないって感じで、生存者を救出することなんか全く眼中になかったわ」
「あ、あのう……」
陽奈が上目使いになりながらおずおずと話に入ってくる。
「私……あの、別に家に帰りたいことないですし、あんまり無理をしていただかなくっていいです。お二人の邪魔になるかもしれないですけど、しばらくご一緒させてもらえたら、その方がいいです」
「え? 家に帰りたくないって、何か事情があるの?」
葵が驚いたように尋ねる。そりゃそうだよな。
「はい……私、家に居場所なくって」
「そうなの……でも意外とご家族心配して待ってくれてるかもよ」
陽奈はぶんぶんと音がしそうなぐらい首を左右に振った。
「本当は私、別に死んでも、ゾンビになってもいいぐらいなんですけど、でもそれ言うと山野先生に全力で引き留められるし」
「そりゃそうよ」
葵は優しい先輩の笑顔になっていた。
「私たち医者っていうのは、人の命を拾い上げるためにお昼もろくに食べず、当直の夜なんてほとんど寝られず、毎日お仕事してるのよ。目の前で死にたいって言う人に『ああ、そう』って絶対に言わないわ」
「……そうですよね」
「それに、別に邪魔なことはないわよ。むしろこの人と二人っきりだと息が詰まりそうになるから、陽奈ちゃんがいてくれて助かったわ。一緒に行きましょう」
「ありがとうございます!」
悪かったな! 息が詰まりそうで。
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