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そこにあるトラックに俺と陽奈が乗り込もうとすると葵が驚いた。
「え? これに乗って行くの?」
「ああ。鍵が刺さったままでここに放置されてたんだよ。理学部棟まではちょっと距離あるし、ゾンビもうろうろしてるんで、これに乗った方が安全だと思ってな」
「ちゃんと動くの?」
「それは、まあ、動かしてみないと分からないけど」
「というか、あなたちゃんと運転できるの?」
「見たところ2トンか3トンだし普通免許の範囲だろ。オートマだし大丈夫だよ」
「どうだか……あなた、自分では覚えてないでしょうけど、車の運転下手だったわよ」
「え? そうなんですか?」
何故か嬉しそうに陽奈がツッコミを入れて来る。
「ええ、この人の助手席に乗ってて確か3回事故に遭ったわ」
何でそんな俺の生前の恥を満面の笑みを浮かべながらバラすんだよ!
「ええーっ! 怖いーっ! 葵先生が運転して下さい」
「分かった、分かった、じゃ葵、お前が運転してくれ」
無理矢理、運転席を奪われてしまったよ。
トラックの座席はベンチシート風で、横並びに三人座れるようになっている。葵が運転席に座り、真ん中に陽奈を挟んで、俺が助手席だ。
葵がキーをひねると軽くエンジンがかかり、トラックはするすると動き出した。臨床講義棟の外側をぐるっと回りながらスロープを上がり、地上に出てきた所が銀杏並木だ。
大学病院と鉄板の隔離壁を後にして、トラックは理学部棟の方向に向かって走り出した。
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