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「葵先生、運転上手いですねー」
「そうかしら。普通に運転してるだけだけど」
「うちのお母さんなんて、下手なくせに細い抜け道とか突っ込んで行くんで、私、横に乗ってていつもハラハラしてた」
「ああ、まあ、そういう人いるわねえ」
「それに自分の運転下手なの棚に上げて大声で周りの車の文句ばかり言ってて」
「まあ、そういう人も多いわね」
「それに横から車が出てきても絶対に入れてあげないし」
「まあ、そういう人もいるけど……お母さんのこと嫌いなの?」
「だいっ嫌いです」
「ふうん」
いつの間にかさっきの話の続きをしている二人を置いて、俺は窓の外を通り過ぎていく銀杏並木をぼーっと眺めていた。
今は10月下旬か。
そういえば銀杏の葉は所々黄色くなりかけている。もうちょっとしたら綺麗な黄金色の並木道になるんだろうな。
周りの人間界でとんでもないことが起こってても、樹はそんなこと知ったこっちゃない。いつもと同じように季節のサイクルが巡ってるだけだ。
時々路上を彷徨っているゾンビを見かけるが、トラックに乗っている人間は目にも入らないようで、全く反応しない。トラックはちょっと減速して彼らを避けて走って行くだけだ。
ああ、しかし何だか頭の回転が遅いな。思考回路が腐って粘りついてきてるような感覚だ。
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