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 七月上旬、平年より早い梅雨明けを迎えた太陽は白く眩い。どこで購入しようかと店を探せば、新しいアイスクリーム屋を発見した。なになに、白波牛乳ソフトが開店記念キャンペーンで半額とは、買わなければ。  コーンを手に私は我に返る。贈り物を選ぶはずがさっそく脱線している。食べ歩きになってしまうと反省しながら、私はソフトクリームを舐める。夏の海を感じられる爽やかな甘さを満喫していると、木立の影に呼び止められた。 「香菜ちゃんこんにちは。奇遇だね」 「ユウスケ。こんなところでどうしたの?」 「俺の住処が海に行くから着いてきたんだ。でも、香菜ちゃんを見かけてこっちに来たってわけ」  ユウスケに促されて見れば、女性に囲まれ歩く茶髪の男性の姿がある。彼の影が住処だと聞き、私は納得した。ユウスケの軟派な性格の理由が分かった気がする。  ユウスケは町中の影を移りながら私に同行してくれる。あわいの者と町歩きは初体験で、新鮮だ。 「色んな影を伝うのは大変でしょ。今なら私の足元に入れるよ。良ければどうぞ」 「魅力的な誘いだが、入れば八郎を本気で怒らせてしまうだろう。彼は大切な友人だからね。正式な許可が下りたら入らせてくれたまえ」  まるで娘との交際を父親に認められるまで待つ男性のようだ。そこまで真剣にならなくても良いと思うが、意思は尊重しようと思う。  私達は手作りアクセサリーを扱う雑貨店に入った。レオはいつも星空コーヒーフロートが届くと、グラスの瞬きに長い間見入る。きっと光るものが好きなのだ。  三日月のブローチに、蝶のイヤリング。どれも上品で華やかだ。すぐ隣ではカップルが頬を緩めてネックレスを選んでいる。相手を想い選んだ品には心がこもる。レオに私の友達になりたい気持ちが伝われば嬉しい。  どれにしようか吟味していると、ユウスケから男性には可愛すぎると指摘された。言われてみれば確かにそうで、私はすぐに他の店舗を回った。素敵な商品はいくつもあるが、好みが分からず購入には至らない。もっと相手の情報を集めておくべきだった。  悩みながらも、昔ながらの書店を見つけ足が止まる。思いつきだが本のプレゼントはどうだろうか。カフェではいつも本を読んでいるし受け取ってもらえそうだが、ユウスケは否定する。 「本は止めた方が良いよ」 「どうして? 本なら間違いなく好きでしょ。持ち歩いているもの」  ユウスケは左手を腰に充て、人差し指を立てると左右に振る。 「レオ君は文庫本を読んでいないよ。いつも同じペーシを見ているんだ」  ユウスケはレオに話しかける回数が多いため、開いたページが自然と視界に入る。最初は気づかずにいたが、毎日同じ数字が右端にあると知り不思議に思っていたらしい。ユウスケは周囲を無視をするための道具として、本を使っていると考えている。 「ユウスケが邪魔をするからページが進まないだけかもよ」 「そんなことないさ。俺だって他の客と一緒でレオ君と関わらない日がある。読める時間はあるはずなのに、いつだって百八十二ページが開いているんだ」
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