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 そのページに何かありそうだが、内容までは分からないそうだ。レオに近寄ると八郎が止めに入るため、確認をする余裕がないと頭を左右に振る。ユウスケはもっと早く私に伝えるつもりが、毎日が楽しくて忘れていたそうだ。書店がきっかけで思い出したと申し訳なさそうに言う。  カフェに戻ったらすぐに八郎に相談しよう。聡い彼ならすぐに対策を考えてくれるはずだ。  書店を離れ少し歩けば、洒落た店舗は少なくなり土産物屋が目立ち始めた。名物の菓子を贈るわけにはいかず、引き返すために私は信号が変わるのを待つ。横断歩道を渡ろうと多くの観光客が佇んでいる。  私はぼんやりとレオのことを考えていた。今頃何をしているのだろう。カフェを出る時間はいつも決まっているから、何か予定があるのかもしれない。気にしすぎるあまり視界に入る小学生が全員レオに見える。横断歩道の先を歩く少年なんてレオにそっくりだ。艷やかな黒髪、美しい容姿、堂々としながらも品のある足取り。あまりにも似て、私は目を擦りもう一度見る。 「そっくりさんじゃない。レオ君だ。ユウスケ、レオ君がいるよ」 「どれどれ。なるほど、確かに白昼夢ではなさそうだね」  人間嫌いなのに町中で何をしているのか。私達は相手に気づかれないよう一定の距離を取りながら尾行をする。その足取りには迷いなく、歩き慣れた印象を受ける。  小さな背中が吸い込まれたのは道の駅だ。産地直送の野菜や特産品が置かれ、奥には小さな休憩室がある。  レオは売り場を廻っている。足を止めたのは地元住民の手作りコーナーだ。地元の職人や、老人クラブの参加者が様々な商品を出している。買い出しの時に一度眺めたが、温かみのある丁寧な品々ばかりだ。  欲しいものがあるのだろうか。相手の視界に入らないように遠巻きに見守れば、突然肩を叩かれた。 「香菜ちゃんこんにちは。コソコソしてどうしたの、好きな人でもいたのかしら」  振り返れば農作業着に身を包む七十代の女性が立っている。目を細めて売り場を探り、想い人の特定に忙しない。 「違いますよ、勘違いですって。たま子さんは買い物ですか? ここで会うのは初めてですね」 「あら、私は用がなくてもこの時間はだいたいここにいるわよ。新しく作った手芸品を納品したり、そうじゃなくても休憩室でのお喋りが日課なのよね。今日は友達の畑の出荷作業を手伝った帰りなのよ」  たま子は麓の町の住人だ。八郎の友達で、知り合って日の浅い私にも気軽に話しかけてくれる。休憩室で談笑していたところ、おかしな動きをする私を見かけ声をかけたらしい。 「そうだ、八郎さんに今年も八月一日に顔を出すって伝えてくれないかしら。言ってくれれば何のことか分かると思うわ」  私は二つ返事で了承し、必ず伝えると約束をした。たま子は人間でありながら、定休日に遊びに来てくれる優しい人だ。ランタン亭は麓の町では“光るお化け屋敷”と呼ばれ、評判は悪いと聞いている。麓の町の住人が訪れるのは特に珍しく、八郎は喜ぶだろう。
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