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「何の話かさっぱり分からないけど、お姉さん達も本を読みに来たんでしょ。図書館では静かにするのがマナーだよ」
私はユウスケと顔を見合わせる。ユウスケの「本嫌い」の予想は見事に外れたようだ。彼は図書館を好み、邪魔をしなければこのまま近くにいても良いらしい。
私は星座図鑑を開くレオを観察する。銀の月が描かれた絵本に、夜空の写真集。テーブルに並ぶ題材は似通っている。
「レオ君は星空にまつわる本が好きなの?」
相手は手元に集中している。私は気にせず言葉を投げかける。
「その図鑑、私も借りたことがあるよ。カフェに飾られたランタンの中に星空があってね、気になって調べたんだ」
話題が良かったのか相手は顔を上げた。
「星空のランタンがあるのか?」
「入って左上に飾られている銅のランタンだよ。今度来たら探してみてね」
微笑み答えれば、彼は予想外の会話に途端に気まずそうにする。レオはテーブルの本を手早くまとめると席から離れた。淀みのない足取りは一定のリズムを保ち、流れる旋律のようだ。
「行っちゃった。颯爽として素敵だったなあ」
「俺達も行こうか。この本は知っていることばかりで飽きてしまったよ」
建物から出ればアスファルトの匂いと、蒸した熱風が肌にまとわりつく。信号待ちをする車や歩道を行く家族連れ。どこにでもある日常の風景にレオの姿はない。
「レオ君は人間が嫌いなのに、どうして人間の近くで過ごすんだろう」
私の独り言に近い呟きに、ユウスケは大仰に胸元を押さえた。
「きっと、忘れられない人がいるのさ」
冗談めかした台詞だが、本当にそうなのかもしれない。人間とあわいの接点はないと言われるが、レオが何かしらの関わりを持つ可能性はある。人間を遠ざけながらも決別できない理由はそこにありそうだが、本人にしか分からない。
私は考えるのを止めると頭上を仰ぐ。すっきりとした薄青の空が明るく励ましてくれる。
「よし、ひとまず帰ろっか」
「贈り物は良いのかい?」
「じっくり考えるよ。今日は付き合ってくれて本当にありがとう」
ユウスケは夕方からバーベキューに参加するらしくその場で別れた。住処に戻り女性を口説くテクニックを学ぶそうだ。彼らしいと思いながら私は帰路についた。
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