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「香菜ちゃんは積極的で素敵だけど、そっとしておく時間も必要だよ。男女の仲睦まじい関係は適度な距離感が大切なのさ。俺の住処はモテ男だからね、よくそういう話をするんだよ」 「それって恋愛の話でしょ。私はレオと友達になりたいだけだよ」 「関係あるさ。迫ってばかりじゃ相手は窮屈だってことさ」  窮屈、という言葉が鼓膜を突く。ユウスケは私がレオに対して空回りしていると気づいている。彼を追い続けるのは相手を知るためだが、間違っているのだろうか。 「じゃあ、どうやって仲良くなれば良いの?」 「頑張らないことだね。自然体で、自由にしていれば良い。レオ君のことを考えすぎると失敗するよ。適度にやろうよ」  そう言われてもしっくりこない。適度とは何だろう。悩んでいると、ユウスケは親指を立て自身の胸に向ける。 「じゃあさ、俺と仲良くなった時のことを思い浮かべてみなよ」 「ユウスケと? うーん……」  ユウスケはノリが軽く話しやすいため、気づけば友達になっていた。覚えていないと口にすれば、相手は頭を抱えながらも楽しそうに笑う。 「気づいたら仲良くなっていたくらいがちょうど良いんだよ。だから、肩に力を入れないで深く考えずに声をかけた方が良いよ」  私はユウスケの言葉に、学生の時に仲良くなった友達のことを思い出していた。席が隣同士なのがきっかけで、知らぬ間に仲良くなった。互いのことは深く知らなくても顔を合わせれば笑顔になる。そんな居心地の良い関係だったのを覚えている。  仲の良さは相手を知り尽くすことじゃない。一緒にいる時間を大切にできれば良いのだ。私はそれを知っているのに、レオとの関係を壊してしまった。  図書館で彼が口を開いてくれたのは、私と友達になれると感じたからだろう。それを私は勘違いをして、レオの素性を暴く権利を手に入れたと思ってしまった。触れられたくない傷は誰にでもある。傷を直に触られるのは痛いと知りながら、私はレオを追い詰め、失望させた。だから私を傷つけるような発言をしたのだ。  私は肺に残る濁った空気を一新する。大丈夫、今からでもやり直せる。私は自分に誓ったじゃないか、一から関係を作るんだって。 「うん、なんか分かった気がする。ありがとうユウスケ」 「役に立てたのなら何よりさ。もし香菜ちゃんが良ければ、八郎に俺の素晴らしさを口添えしてくれると助かるよ」  カフェに戻る頃にはすっかり日付けが変わっていた。八郎には心配され、ユウスケはこってり絞られたが相変わらず堪えない。八郎とユウスケのやり取りを見ていると笑顔になり、どんな問題も解決する気がして不思議だ。  ランタン亭はいつだって明るく私を迎え入れてくれる。私はここで、自分のできることを精一杯やるんだ。
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