1・出会い

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1・出会い

 木々の天蓋から差し込む陽光が、そよ風に揺れる泉の水面に反射して森の中をきらきらと照らしていた。  髪を優しく揺らす風に、爽やかな花の香りが紛れ込んでいる。耳に心地良い葉擦れの音の隙間から小鳥のさえずりが聞こえたかと思うと、それは小さな羽音を響かせて森の奥へと飛んでいった。  籠いっぱいに摘まれた薬草の中からラシャと呼ばれる野いちごの一種をひとつ摘まんで、ジゼルはそれをぽいっと口の中に放り込んだ。口内を一気に満たす少し甘酸っぱい味は、生で食べるよりお茶として飲んだ方が甘みが増す。仕事の合間に飲もうと思って摘んだラシャをもう一粒味見して、ジゼルは帰宅後の仕事量を思い出しながら家路を急いだ。  先程飛んでいった小鳥が(つがい)を連れて泉のほとりに降り立つのが見えた。仲良く水を飲む姿を微笑ましく見つめていたジゼルの視線が、その小鳥の向こう側でぴたりと止まる。  泉のそばに、一人の青年が倒れていた。
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