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バレた……※R15
八郎はせっせと薪を割っていた。
辰子が最近よく寒がるからだ。
薪割りをしていると、体中から汗が出てくる。だから着物を剥いで、上半身だけ裸になっていた。
「ふぅ……」
一息ついていると、姫が洞窟から出てきた。
八郎の格好を見た姫は、ぎょっとして思わず顔が赤くなってドキドキした。
あの筋肉質で綺麗に締まった上半身を見ると、初夜を思い出すからだ。
あの日、耳元で姫の名を囁く八郎の声が今でもはっきりと耳に焼き付いている。
顔立ちはいいのだが、普段どこか抜けているような愛嬌のある顔があの時は一変し、凛々しく、あの美しい肉体と一緒に姫に覆い被さって来た。
あんなに情熱的な彼は見たことが無かった。
夢のような一時だった。
あのあと、そういうのは今日まで無かった。
もしかして、八郎はあまり良くなかったのだろうか?
そんなことを思って、突然不安になった。
そう言えば、おらは初めてのことだったが、八郎は?前に一緒にいたあの女と……
そういうことがあったのか?
もしかして、それと比べられて、おら、がっかりされてる?
おっぱいも負けてるし……
「八郎のバカやろーーーーー!!!!!!」
姫は泣きながらそう叫んで、洞窟へ全速力で走って戻っていった。
「……一体何だ?……変なやつ……」
八郎は大して気にも留めずに、また薪割りを再開した。
姫の機嫌は夜になっても治らない。
「だから……どうしたんだよ。ほら、食えよ、イワナ!!旨そうに焼けてるぞ」
八郎は姫の口元にほれほれとイワナを持っていった。
「いらん!」
姫はつんとそっぽを向くばかり。
「本当にお前、いい加減にしろよ!しょっちゅう腹減ったって言うから、せっかく準備したのに。冷めないうちに、焦げないうちに早くイワナを食えよ!」
「別に獲ってきてくれなんて、頼んでない!」
「はぁー……もう勝手にしろ!」
八郎も姫に背中を向けた。
グスッ……と姫はすすり泣きを始めた。
八郎はそれに反応して、姫の元に駆け寄った。
「本当にどうしたんだよ、辰子?何に怒ってるんだかわからないけど、許さなくていいからせめて理由を教えてくれよ」
そう言って姫の髪を撫でた。
「八郎が悪いんだ……おらをこんなに不安にさせて……」
姫は泣きながら、照れもあって自分の本心をたどたどしく八郎に説明した。
それを最後まで聞いた八郎は暫くポカンとしてから、大いに笑った。
「何が可笑しい!!!」
姫は目を真っ赤にしながら、それにたいそう怒った。
「いや、わりい、わりい……でも、信じてくれ。俺も辰子が初めてなんだぜ」
「嘘つき」
「嘘じゃねえよ」
「だったら何で2度目が無いんだ?」
姫は自分がスゴく大胆なことを口走っているのに気が付いていなかった。
八郎は真剣な目をして言った。
「お前が大事だから」
「えっ?」
「あまりガツガツしたら、嫌われるんじゃないかと思ってさ……お前が誘ってくるまでずっと待ってたんだぜ……」
「さっ……誘うって……女からそんなこと出来るわけないだろうが!やっぱりおめえはすんごい馬鹿だな!」
姫はそう言ってまた泣いた。
それを見た八郎は姫を抱き寄せて優しく語りかけた。
「ごめんな、辰子……俺、本当そういうの気づかなくて……実はずっと、またそうなったらいいと思ってたんだ。受けてくれるか?」
「……しょうがないな……」
姫は彼の目を見てそう言った。少し笑っているようにも見えた。
「よし!その前に、イワナ食っちまおう!」
そう言って床に刺していたイワナの串を全て取り、姫に渡した。
姫は八郎を気にせずに思い切りやけ食いした。
そのあと、また至福の時を過ごした。
2人床について、いざ寝ようとした時。
八郎はぼそっと言った。
「辰子……お前、最近まるで人間に戻ったみたいだな……」
「へっ?なっ……何で?!」
姫は心臓がバクバクした。
「だってさー……すぐ寒いっていうしさぁ……飯だって……1日3回は必ず腹減ったって言うじゃん?寒さとか、腹減ってひもじくなるとか、龍の俺らにはあまり関係のないことなのに……一体どうしちまったんだ?……俺が思うに、やっぱりおめでた……」
「それはないっ!断じてないっっ!!」
姫はきっぱりと言い放った。
このまま黙ってると、八郎が可哀想だ……おらも罪悪感が半端ない……どうする?言うか?全て打ち明けてスッキリするか?でも……
姫は葛藤していた。
おらが八郎だったら、どうだろう?……
こんな大事な隠し事して、死ぬとき突然「さようなら」と言われるんだったら、 絶対許せねえな…… よし!!
姫は言う覚悟を決めた。
重要な事実を聞いた八郎は、青ざめていた。
「マジか……何で……どうして一言俺に相談してくれなかったんだよ……」
大変なショックを受けていた。
そして次の瞬間、ぎゅっと姫を強く強く抱き締めた。
「今度は、絶対俺がお前を何とかしてみせる!」
八郎の胸に埋もれた姫は、その頼もしい言葉に一筋の嬉し涙を流すのだった。
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