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新しい寝床
八郎は深手を負いながら大河を渡り、途中の山で川を堰止めて湖を作ろうとした。
だがそこに先に住んでいる7柱の神々がそれを良しとせず、攻撃されてきたので已む無く更に下流へ進んだ。
遂には日本海まで出てしまった。そこでようやく湖を作るのにぴったりの土地が見つかった。
とりあえずここで1日やり過ごそうと思った。
もう体力の限界だったので、また変なものに襲われないよう、人間に姿を変えた。
南祖坊の剣にやられた傷で、身体中かさぶただらけになっていた。
ドンドンドン……
民家の戸を叩くと、中から動きの鈍い爺さまが出てきた。奥に似たような婆さまもいた。
「あー?なんだ、おめー?」
「宿を探している。すまんが、これで一晩泊めてもらえないか?」
そう言って八郎は両手にどでかい鯛を2匹つかみあげて、爺さんに見せた。
「……よし。入れ」
高価な土産が効いたのか、快く中に入れてくれた。
うまい飯もご馳走になり、布団も敷いてもらい、久々にゆっくりとくつろげた。
その夜外に出て、流れ星がたくさん飛ぶ星空を仰いだ。そしてこう呟いた。
「神様……俺はこの地に自分の寝床を作ってもいいのか?」
すると、天から声がした。
「お前は、これまでだいぶ苦労したな……理不尽なことばかり続いてるから、ちょっと哀れに思えてきた。だからこっそりと教える。実は丁度明日の朝、鶏が鳴くのを合図にこの辺りで大洪水がおこる。それを利用して、自分の湖を作るといい」
八郎はそれを全て聞き終わると「はっ」として、爺さん婆さんの寝床に向かった。
そして寝ている2人を叩き起こしてことの次第を伝えた。
「あんだぁ?起こされたと思ったらそんな世迷い言を!……」
どうしても信じてくれなかったので、八郎は自分の手を一部龍化して、正体を見せた。
爺さまと婆さまは目を丸くして口をあんぐり開けていた。
「これでわかったか!必ず、鶏の鳴く前に高い山に避難してくれ。頼んだぞ」
夜も明けてきたので2人と別れ、この地を一望出来る場所へ移動し、湖を作る準備を整えた。
鶏が一鳴きすると、遂に轟音をたてて洪水が襲って来た。するとどうだろう。
あれほど逃げろといった老夫婦は、まだモタモタと水の進行方向に残っていた。
麻糸を忘れたと、婆さまが家に戻っていたのだった。
「畜生!」
間に合うか?
八郎は猛スピードで二人のところに飛んで行き、尻尾でまず爺さまを弾き飛ばした。
続いて、婆さまを同じように弾き飛ばした。
その直後、八郎は鉄砲水に飲み込まれ、引きずられていった。
だが龍なので、なんてことはなかった。
老夫婦2人はというと、全く反対方向に飛んで行き、爺さまは湖の東岸に、婆さまは北西岸にそれぞれ着地した。
八郎はその後順調に湖を作っていき、遂に完成させた。見事な出来映えに満足し、水底に潜っていった。
この湖が、八郎湖であった。
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