73人が本棚に入れています
本棚に追加
0
弟から昨日の夜、電話があった。
「兄貴、ありがとうっ。本当たすかったー!」
心の底から嬉しそうな弟の声がスマホから聞こえる。
俺は就職を機に一人暮らしを始めたため家族とは一緒に住んでいない。
元々マメな性格でもなく家族との交流も最低限のものになっていた。
だが一か月ほど前、母親から連絡がきたのだ。
弟が今年大学生になるタイミングで家を出て友達と一緒に暮らしたいと突然言ってきたと。
入学予定の大学は家から電車で三十分くらいで充分通える距離だからダメだと反対したが、いつもは反対されるとすぐにあきらめてしまう弟が今回に限ってはあきらめずに粘り強く交渉してきて俺に弟を説得してほしいとのことだった。
だけど、反対に俺は弟の援護射撃をした。
弟の秘密を俺は知っていたから。
弟が一緒に住むという友達がただの友達ではないとわかっていたから。
俺にはできないことを弟が頑張るというのだから兄としてはなんとしても手助けしてやりたかった。
頑なだった母親も一か月の長期の説得にしぶしぶ許してくれたそうだ。
「そうか。よかったな。お前ももう大学生なんだし家を出たいって気持ちもわかるしな。それに友達と一緒に住むんだろう? 俺も時々は見に行くし、困ったことがあったら何でも相談しろよ」
「うん!」
頑張れよ。兄ちゃんは何でもしてやるぞ。
弟の前に広がる平坦ではない道のりを思い改めて力になることを心の中で強く誓った。
最初のコメントを投稿しよう!