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1章 畔にて
1.
王子は幼い日の夢を見た。
湖の畔にて、手紙を見つけた。文字を読むのも覚束ないほどまだ幼い日のことだが、度々思い返していたからだろう。夢はとても鮮明だった。
青々と茂る柳の葉を映す湖面は陽の光にきらめき、畔にたたずむ白い漆喰塗りの東屋がよく色映えている。色鮮やかな絵画の風景の中で無邪気に走り回るうち、王子はひとひらの白い紙片を拾った。
文字の手習いは得意にしていたが、まだ教わっていない難しい字がたくさん並んでいる。自分で読みたい気持ちもあったが、もし途中で間違えてしまったらと思うと、幼いながらも王子としてのプライドがゆるさない。王子は拾った紙片を側仕えに渡した。
「ねえ。紙が落ちていた。字が書いてある」
「手紙のようですね。……これは……」
「なんて書いてある?」
「……『こんにちは』……と、書いてあります」
それだけ言うと「はい。どうぞ」と、側仕えは王子に手紙を返して寄越す。王子は目を丸くした。
「嘘だ。それだけじゃないだろう、もっとたくさん字が書いてあるぞ」
「王子を試したのです。聡いですね。とてもよろしい」
「もう! べつに読めないからって渡したわけじゃないんだからな!」
文句を言いながら、力任せに体当たりした王子の小さな体はすっぽりと側仕えの腕に収まった。そんな王子の頭をまるで犬か猫の相手をするかのように、くるくると撫でながら側仕えはすがすがしく笑った。
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