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二人は草の上でひとしきりじゃれ合うと、晴れ渡る空に体を広げ深呼吸をした。側仕えが王子の髪に付いた草を丁寧に払っていると王子は神妙な顔をして湖の対岸を指さした。
対岸には塔ばかりが目立つ簡素な造りの小さな古城がある。ところどころ土壁がはがれ煉瓦が見え隠れしている。もとの煉瓦造りにただ土を塗りたくっただけのようだ。蔦は絡まり放題、補修はされていようともぞんざいに扱われているのがわかる。それに、窓は塔の中腹あたりにたった一つだけ。それが幼い王子にはこの上なく不思議だった。
「あそこから飛んできたのかもしれない。夜になると明かりが点くんだ」
王子は側仕えの袖をきゅっと掴んだ。
「塔の灯りを見たことがあるのですか。王子、夜更かしをなさっているのですね。お母さまに報告しなければなりません」
「ダメ! お願い秘密にして」
「では、お城に帰ってお勉強の時間です。この手紙、ご自分で読んでみませんか?」
「読む!」
「……香でも含ませているのでしょうか。良い香りがしますね」
「もしかして、お姫様かな」
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