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湖の対岸の畔、塔の小窓には毎晩、あたたかなオレンジ色の光がほのかに灯っている。きっと誰かが住んでいるのだろう。
もし、あの塔から飛んできた手紙だったらと思うと胸が躍る。返事を書いてから塔を訪ねよう。そして友達になるんだ――。
王子は毎晩、湖の対岸を眺め空想しながら眠るのだった。
隣国との争いが激化する中、幼い王子は身重の母と喧騒の届かぬ田舎の離宮へ避難していた。王子にはもうすぐ弟か妹が生まれる。
母親の生家も近く、何より湖が美しかった。四季折々に風景を変えるこの場所は母親の一番お気に入りで王子もこの離宮で生まれたという。
湖畔では、戦乱の世にあるなどまるで嘘のように穏やかな時が流れていた。王国にとって大切な第一王子。その後も戦乱が終結するまでの10年間、湖畔の城で暮らすことになる。
王子は拾った手紙を二日かけて読んだ。齢五つにしてよく読めた、と側付きに褒められ、返事が書けたらもっとすごい、と持ち上げられ、それからは読み書きの勉強時間を多くとった。
そしてついに返事が完成したが、そういえば、返事を書いてみたものの渡す方法がない。あの塔から来た手紙だという確信はないが、きっとそうだと思っていた王子は自分と塔を隔てる湖の湖面を恨めしく見つめた。
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