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手紙を拾った湖の畔にたたずみ、唇を噛みしめた王子は初めて自分で書いた手紙をにぎりつぶした。そのままポケットに押し込みかけた小さなこぶしを、側付きがすっと手を添え止めた。
「王子、いい方法があります」
側仕えが片膝をつき、目線を合わせると王子は瞳を潤ませている。
きゅっと口元を結び必死にこらえてはいるが、涙が溢れないよう大きく目を開きまっすぐに見返してくるしぐさに側仕えは笑みをこぼし、小さな肩を抱きすくめた。
「宛先のわからない手紙は小瓶に入れて湖に流すと届くそうです。濡れないよう、しっかりと栓をしてお祈りを忘れずに。ほら。私がちゃんと用意してきました」
「それじゃあ、ちゃんと届いたかわからないじゃないか。直接塔へ行って届けたらどうかな。ねぇ、船を漕げる?」
「おや。なぜ塔から来た手紙だと? まだ夜更かしをしているのですか? 今でも塔の灯りを見ているのですね?」
「ち、違うよ。あの塔以外、このあたりには何も無いから……」
「手紙が塔から寄越されてるとはかぎりません。それに、あそこは捕えた魔物を閉じ込めてある場所という話……塔へ届けたらそのお返事、食べられてしまうかも」
「えっ。……じゃあ、湖に流す」
その後、王子は時折手紙を拾うようになった。そのたび返事を書き、ガラスの小瓶に詰めて湖に浮かべた。
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