プロローグ:yes, it is a dull beginning

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「あー、これはもしかして大変なことになっちゃったかな?」 太平洋上空、眼下に広がる果てしない海はかつてない程に荒れ狂い、波と暴風が男を飲み込もうと勢い勇んでいる。 対して男は上空に体を浮かべたまま、が消えた虚空を見つめ、ただただ存在していた。 ポケットに忍ばせた携帯電話が鳴り響く。 Edvard Grieg(エドヴァルド・グリーグ) 山の魔王の宮殿にて この心の平穏をかき乱すような楽曲を着信音に設定しているのは、ただ一人しかいない。 まあでも、僕の私用携帯に着信を入れるような相手は殿にて苛つきながら構えている人物しか思い当たらない。 「はーい、もしもし」 「捕獲したか、倒したか、消し飛ばしたか」 電話口の相手は高圧的な口調で(まく)し立てる。 「えーと、飛ばれちゃいましたねえ」 「どこに」 「それは今から探そうと思っていたところです。だいぶ弱っていたので、遠くには飛んでいないと思います。どこか近くで人がいるところーー」 「本物だったのか」 「そうですね、間違いなく本物でした。本物中の本物です。正真正銘、S級の龍でしたよ、神ですね、ありゃあ」 特務室の保管しているいつの時代のものとも知れない古文書に記された伝聞。あんなものが本当に日本近海に現れるなんて半信半疑であったが、奴の鋭い眼光に触れ(あと、試しに当てた能力測定器の針が振り切れ、爆散したのをみて)、確信した。 「そんなものが日本に上陸したら、流石に我々の存在を隠し通せないからな。猫の手も借りたい、というところだよ。頼むよ、」 「承知しましたー」 男は気の無い返事をすると通話を終了し、携帯電話をポケットにしまった。 さて、この辺りだと静岡か千葉あたりか、はたまた東京か。 とりあえずは、さっさとぶっ倒して、本部に帰りますか。
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