第1話「焼ける悲鳴」(2/3)

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 ■    俺はマンションに向かうまでの道すがら、藤鍵から聞いた話を反芻(はんすう)することにした。  まず、坂力 毅という人間について――。  藤鍵の中学からの友達だが、あまり自分のことを話したがらない奴だったようで、詳しい人間関係については藤鍵もあまり知らないらしい。  また、そんな性格だった為、クラスでは孤立しがちだったが、特にいじめられたりとかは無かったという。暗いというよりは、影が薄いという感じだろうか。  そして成績だが、これは悪くなく、寧ろ良い方で、テストでは常に九十点近くまで取っていたらしい。もしかしたら、俺よりも頭が良いかもしれない。藤鍵はたまに勉強を教えてもらっていたという。  一人暮らしを始めたのは高校生からで、藤鍵は、遊びに行ったりしたことは無いが、白城マンションの一〇五号室に住んでいることは聞いていたらしい。  ちなみに、一人暮らしの理由は、単純に実家と高校の距離が遠いからとのこと。  俺はその話を聞いて、素直に凄いと思った。  朝に弱い俺には、一人暮らしなんてとても無理だからだ。  食事も自分で用意しなくてはならないし、洗濯、風呂の準備もやらなくてはならない。  坂力は割としっかりした人間なんじゃないだろうか。  藤鍵から聞いた限りでは、俺はそんな印象を抱いた。  ――では、次に教師や警察の事情聴取の内容。  坂力は不可解な遺書を残していたらしく、警察は彼のことを知っている人間を探していたとのこと。  藤鍵は遺書の内容を聞かされたらしく、それは次のようなものだったという。  「怪物を見た。それは自分の中に居た。このままではきっとマズいことになる。」  「だから、死のうと思う。俺が死ねば、全ては終わる筈。」  「でも、もし消えなかったら。怪物がまだ暴れるなら。俺の死が無駄に終わった時は。」    「その時は、任せる――」  ……確かに、意味はよく分からない。けれど、間違いなく坂力 毅本人が残したものだ。  きっと何かのヒントになる筈――。  ――藤鍵から聞いたのは、大体こんなところだ。  今のところ、警察も坂力 毅の自殺の原因については掴めていない。  学生の自殺と聞いて、考えられるのは学業不振、進路に関する悩み、親子関係の不和、いじめ辺りだが、これまでの話を基に考えると、どれも微妙なところだ。  毎日退屈そうな顔をして過ごしていたらしいが、こんな突然自殺するような奴ではないと、藤鍵は言っている。  (……自殺……か。)  俺はそうしたいと思ったことは一度も無い。だから、理解するのは難しい。  坂力 毅が何を思って死を選んだのか、確かに気になる。
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