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天狗の隠れ家
警告を発する蝉たちの声の中で無関心な誰かとすれ違う。例えばすれ違ったその人が何かを落しても、泣いていても行き過ぎるだけ。
普通電車さえ止まらない日の出の頃と、真昼の頃と、日の入りの頃の三回だけ電車の来るような駅のベンチに座って人の様をぼうっと見ていると、無性にどこかへ行きたくなった。
私のような二十歳も過ぎた娘が平日の真昼に疲れた顔でふらふらしていても、すれ違う人は小首すら傾げない。きっと、気楽なプー太郎にでも見えているのだろう。
そして今、あやかし列車の駅に座る私は誰にも見えていない。もっとしっかり言えば、誰にも認識されていないのだ。
ここが妖の列車の駅で、私がその切符を持ってそこに座っているから。トウシュという名の鬼の話によれば、この駅の事すら人は見えていても覚えてはいられないのだと言う。
それが妖という存在らしい。
本当にうらやましいなと思いながら、私はやって来た赤い車体のあやかし列車に乗る。
列車は一両だけで、中はカウンターとボックス席のある休憩所のようになっている。
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