天狗の隠れ家

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 私はいつもと同じように、その隅のお茶出しセットの置いてある場所に行き、壁に折り畳まれている座席を出して座る。  トウシュのやっている『あらふじ茶物店』の店員として乗っている私の席はいつもここだ。  妖はいつも私たちのそばにいる。妖たちの使う駅が平然と町外れなんかにあり、列車の中では今日の異常な暑さのために干上がった皿に水を掛けていた河童が、隣の席の蛇女に水が飛んだと怒られているのだ。  あなたが今すれ違った人は鬼だったかもしれないし、天狗だったかもしれない。  例えば背中に羽の生えた妖を見たとしても二、三歩も歩けば綺麗さっぱり忘れてしまうのだ。  認識できない。何かの偶然で認識できたとしても、そこを離れれば忘れてしまうのが妖だ。  だから私はこの切符を手放せないでいる。  人の世の中よりも、妖の見えている今の方が生きやすいからだ。 『切符を得られるのは生涯で一度だけです。  切符には期限も限度もありません。  人間のお客様は降りられたら三日以内にご乗車ください。  でないと切符が消えてしまいます。  もう二度とあやかし列車に乗れなくなってしまいます』
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