天狗の隠れ家

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 これが、あやかし列車の切符の注意事項。  切符を持っている間は、世界中にいる妖たちが認識できるのだ。神社の境内に小人が集落を造っているのや、畑で火の鳥が欠伸をしているのが見えるのだ。  手放せるわけがないと、私はほんのり銀色に光る切符を財布にしまう。  すると向こうからフカフカのお腹をした狸の妖が歩いてきた。 「すみません。お茶を一杯お願いしたいのだけど」  狸は汗を拭きながらそう言った。そして私はいつものように、乏しい表情で接客をする。 「はい。本日は玄米茶と蜜柑の紅茶をご用意しておりますが」 「じゃあ玄米茶を一杯」 「三百円になります。出来ましたら席までお持ちします」  そうすると狸はお金を払い、カウンター席に戻っていった。  私は玄米茶を淹れながら、言い知れぬ心地良さを感じていた。それは妖たちの空気感や、他者との関わり方のためかもしれない。自分自身だけではなく相手を見てくれる。心配するような表情や声色のためかもしれない。  つまり私は甘えているのだろうと思う。  玄米茶を運んで席に戻り、私は切符を手にした時の事を思い出していた。あの時も私は甘えていたのだ。
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