天狗の隠れ家

4/22
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
 博物館で働く考古学者の父は発掘で家を空けることが多くて、動画配信者の母はヒステリックな性格が悪化して、必然的に私は家を出た。  大学には行かず、IT企業のヘルプデスクに就職した。  二十三歳の年末は実家にも帰らずに、母からの狂声の留守電を無視して、父から送られてくる異国の写真と『ただいま』だけのメールを見て年を越した。  出社した年明け、後輩が富士の樹海から帰って来ない。  その日のうちにブラック気味だった会社を衝動的に辞めてぶらついていて、気が付くと見慣れた町の中で見知らぬ駅に立っていた。  いつの間に切符を買ったのか、私は銀色の切符を握っている。  疲れ切っていた事が逆に良かったようで、私は恐怖を感じることなく呆然とただただ列車に乗った。  その列車の中で声を掛けてくれたのがトウシュという名の鬼だ。  トウシュは碌に返事もしない私の手を引いて列車を降り、鬼の里に連れて行ってくれた。  そして自分の『あらふじ茶物店』に案内し、ご飯を食べさせてくれてお風呂と寝床を用意してくれた。  その頃になってようやく涙が零れたのだ。  見知らぬ鬼に頭を撫でられ、私は全力で甘えた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!