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それから妖の事や列車や切符の事を聞き、来るなと言われても毎日のようにトウシュのもとに通っているのだ。
そうするとトウシュは仕方なさそうに「列車で茶を売ってこい。売り上げがお前の給料だ」と仕事をくれる。
そんな風に暮らして、もう半年が過ぎた。
私に今の暮らしを手放せるわけなど無いのだ。
物思いに耽っているうちに『風吹く駅』に到着し、私は列車を降りる。
表通りから二本ずれると竹林の散歩道に囲まれた大きな公園があり、風吹く駅はその散歩道の途中にある。
トカゲのような尻尾を生やした駅員に切符を見せて散歩道に出ると、顔の見えない人が目の前をスタスタと通り過ぎていく。
顔が壁のような何かで覆われているのだ。
「またか……」
私が呟くと、トカゲの駅員さんが「最近多いですね」と言って頭を掻いた。
この世は壁に支配されている、と私は思う。
妖たち曰く、壁はそのまま心の壁である。大昔からあった事で、妖にしか見えていないその壁は酷くなると強固な殻のようになって全身を覆う。
それでも気付かずに会話をしているのだから人間は恐ろしい、とどこかの妖が言ったのを覚えている。
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