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我慢ができてしまうから悪いのだと、私は思う。死んでしまいそうに苦しくても腹は満たされてしまって、許せないのに笑えてしまう。
そしていつも中途半端に癒されてしまって、また深く傷つけられるのだ。
そんなものを私自身も見ないふりをして歩く。
そして表通り、人の乗り降りの多い駅の近くにある目的の喫茶店に入る。
店の名前は『天狗の隠れ家』で、名前の通り店主は天狗だ。妖がやっているだけあって人間の客なんてほとんど来ない。それに妖たちは人の多い場所を好まないので、表通りにあるこの店はいつも閑散としている。
しかし中は隠れ家という名前の通り、レトロで落ち着く雰囲気だ。
店主のハッカは好きな古書を店の壁いっぱいの本棚に並べ、赤い革の椅子にゆったりと腰かけている。
「いらっしゃい。ヨウカちゃん」
ハッカは私に笑いかけながら、読んでいた糸で綴られている本を置く。
店内には初老の男客が一人いるだけで、その人も帰ろうと席を立ったところだった。
トウシュのお使いで来た私は店内の本を手に取りながらそのお客が買えるのを待った。
「ありがとうございました」
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