天狗の隠れ家

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 そう言ってお釣りを渡すハッカの背には天狗の黒い翼が見えている。 「あぁ。また来るよ」  その人が出て行き店の扉が閉まると、ハッカは「お待たせ」と言って椅子をすすめる。 「トウシュに頼まれて茶葉を届けに来ただけだから」  私が差し出す茶葉の入った袋を受け取り、ハッカはお節介そうな顔でニカッと笑う。 「いいじゃないか。座っていきなよ。酸味が無くてさっぱりとした珈琲、好きでしょ?」  ハッカは言いながら、もうサイフォンの準備を始めている。どうせ予定もないのだし、と私は席に座った。 「さっきの人も切符を持ってる人なの? 切符って結構いろんな人が持ってるんだね」 「いいや? あの人は偶然にも迷い込んだ切符のない人間さ。だから、もう来ないよ。もう翼の生えた可笑しな店主の事なんか忘れているんだからね」  そう言ったハッカが少し寂しそうに見えて、私は別の話題を探す。 「そう言えばニッキ君は?」 「梅の木の婆さんの所にパンを買いに行ってもらってるよ」  ニッキ君は、この店の唯一の店員だ。打ち捨てられた神社に生まれてしまった、うっかり屋な狛犬の妖。
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