天狗の隠れ家

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 そのままでは消えてしまうのをハッカが連れ帰り、この店で共に暮らしているのだ。本人は従業員が欲しかったからだ言っているけれど、高い栄養剤を買って来たり、人の姿になる術を一生懸命に教えたりしていた。 「それよりもさ、そろそろ決めないと。あいつも気付いてるよ? だから帰ってくるなって言うんだよ」 「分かってるけど……」 「ヨウカちゃんは妖側に馴染みやすいみたいだからね。自覚したら早いよ。妖化するのは」  珈琲のコポコポと湧く音を聞きながら、私は何も返事ができなかった。  妖を見てその中で長く暮らすと人間も妖になってしまう。  そうなると知り合いにすらどこの家の娘だとか、あの人の友人だとか、自分の娘だと認識されない。今そこにいる誰か。妖と同じで目の前にいても認識されなくなる。それが妖化だ。  強く自分が染み込んだ物を身に着ければ認識されるらしいけれど、私にはそれがない。  何が自分なのか分からないのだ。  コトリと置かれた珈琲に口を付け、私は溜め息を吐いた。 「妖のそばは居心地が良くて、人間である事も辞めたくないなんて、ワガママだよね」
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