6人が本棚に入れています
本棚に追加
そのままでは消えてしまうのをハッカが連れ帰り、この店で共に暮らしているのだ。本人は従業員が欲しかったからだ言っているけれど、高い栄養剤を買って来たり、人の姿になる術を一生懸命に教えたりしていた。
「それよりもさ、そろそろ決めないと。あいつも気付いてるよ? だから帰ってくるなって言うんだよ」
「分かってるけど……」
「ヨウカちゃんは妖側に馴染みやすいみたいだからね。自覚したら早いよ。妖化するのは」
珈琲のコポコポと湧く音を聞きながら、私は何も返事ができなかった。
妖を見てその中で長く暮らすと人間も妖になってしまう。
そうなると知り合いにすらどこの家の娘だとか、あの人の友人だとか、自分の娘だと認識されない。今そこにいる誰か。妖と同じで目の前にいても認識されなくなる。それが妖化だ。
強く自分が染み込んだ物を身に着ければ認識されるらしいけれど、私にはそれがない。
何が自分なのか分からないのだ。
コトリと置かれた珈琲に口を付け、私は溜め息を吐いた。
「妖のそばは居心地が良くて、人間である事も辞めたくないなんて、ワガママだよね」
最初のコメントを投稿しよう!