✋もう1度この両手で✋

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陽も傾きかけた午後4時、私は駅からの道を自宅へと歩いている。自宅の近所の保育園では、子供たちを迎えに来た、母親が乗ってきたであろう、自転車が数台止まっていた。 この時間帯は、朝送っていった子供を迎えに行く時間であり、家族が再び会える時間でもある。 私は小さな子供の手を引いて、自転車に乗せる親子の姿を、歩きながら目で追っていた。いや違う。どうしてもその姿を見つめてしまうのだ。 「これからの私の人生に、あなたは必要ありません。」 そう言って幼子を2人連れて、妻が出て行ってからもう1年が経つ。 自分の何がいけなかったのか? もちろん女性関係などではない。あんなことができるのは、金のある奴だけだ。こっちは家のローンに、子供達にお金がかかるのに、そんな時間もお金もない。 私の会社はいわゆる世間でいうところの、ブラック会社であるだろう。 平日も9時から20時まで仕事をし、土曜日も15時まで仕事だ。 もちろん残業代など出ない。 「契約が取れて、月のノルマを達成したらいつでも休んでいいぞ。」 と上司は言うが、そんなことなかなか出来ることではない。 これで月の給料は額面28万円。 もろもろ引かれたら手元に残るのは20万ちょっと。 ボーナスなんかもう何年も貰った記憶がない。 出て行った妻も、子供を保育園に預けて働いていた。 2人で協力すればなんとかできるはずだった・・・ もちろん私も現状を変えようと努力はしていた。 ただ高卒の私では、なかなか条件のあう会社がなく、 面接は受けたが落ちたりと、希望が叶うことはなかった。 そもそもこの拘束時間の長さでは、転職活動も集中してできない。 今の会社はブラックであるが、ノルマを達成しなくても、クビにはならず、給料も減らされれることはない。 とにかく出社すれば給料は貰える、このぬるま湯のような環境に、私は甘えていたのだ。
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