World is Colorful編 EP0「Zero Island」

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 …………。    ハイゼンスに収容されているZ級能力者11人。  彼らと共に過ごした時間は、とても刺激的で、鮮やかな色に満ちていた。  《ウィーン……!》  「Nesio! Oh, my God! HELL isn't anywhere !!  (ネシオ! 大変だ! ヘルちゃんがいない!!)」  例えば、彼――ヘルマン・エラー・ラッフィング。  不気味な笑顔と芝居口調が特徴的な、愉快な男だ。  「Run away again ? (また逃げ出したのか?)」  「Ah……HELL! I don't know what would happen to her if she was found by Ena or Raise……!?  (ああ……ヘルちゃん! もし、エナやレイズに見つかったら何をされるか……!?)   Will you help !?(ネシオも探してくれないかい!?)」  「Of course.(いいぞ。)」  茶番と分かっていても、付き合うのが真の友。  ヘルマンは自分がこのハイゼンスで最初に出会ったZ級能力者であり、最初にできた友達だった。  スマイリーフェイスのような飾りの付いたシルクハットを被り、マジシャンスーツを着込んだ彼は、実はアメリカで有名なサーカス団でマジシャンを務めていたことがあり、自分も昔、ショーを見に行ったことがあって、だから彼のことはよく知っていた。    「Ena~!? (エナ~!?)」  ヘルマンと共にEルームに向かう。  《ウィーン……!》  「あぐっ、あぐっ、あぐっ……!」  扉を開けた瞬間、漂う異臭。聞こえてくる唸り声と汚い咀嚼(そしゃく)音。  どうやらエナは食事中のようだ。部屋の奥の方でこちらに背を向けて座り込んでいる。  「Ena! Did HELL come here !?  (エナ! ここにヘルちゃんは来なかったかい!?)」  「ううう……。」  ミンチ肉のような赤黒い髪に、灰色のワンピース――彼女がEルームの主、エナ・リーフだ。  「Oh, no! Ena is crazy about eating! That meat isn't HELL, right !?  (ああっ、駄目だ! エナちゃん食べるのに夢中だよ! その肉、ヘルちゃんじゃないよね!?)」  ヘルマンは彼女の周囲に散らばった肉の塊を漁り始める。  パッと見、ヘルちゃんの姿は確認できない。  「うーっ……。」  肉を取られると思ったのか、エナが鋭い眼でヘルマンを睨み付ける。  彼女の好物は肉。  肉だが……、ただの肉じゃない。  カニバリストである彼女には、限りなく人間に近く加工された肉が与えられている。  ここに来る前に人の肉を食べ続けた所為で、頭が少し変になっているが、不老不死であるZ級能力者にとっては大した問題じゃない。  「Ena. Eat me.(エナ。俺を食べていいぞ。)」  「うう…………?」  ネシオを見たエナは、口から肉の塊をボトリと落とした。  「あうう……。」  《ズシャアアア!!》  すると、彼女の背中から赤い根のようなものが勢いよく飛び出し、こちらに向かってくる。    これが彼女の能力。  赤い根を周囲に伸ばすことで、あらゆるモノを食らい、自分の栄養に変換することができる。  「………………。」  ネシオのエネルギーを吸い取ったエナは、段々と正気を取り戻していく。  立ち上がった彼女は、片手で口元の汚れを拭い、静かに周囲の様子を確認した。  「Phew……, I did it again.  (ふぅ……、またこんなに汚してしまいました。)」  さっきまでモンスターのように肉にかぶりついていたエナの口から、ようやく人の言葉が飛び出す。  彼女の脳は、能力を使用している間だけ、正常な状態に戻る。  本来の彼女は、とても(しと)やかなのだ。  「Ena! Did you see HELL !?  (エナちゃん! ヘルちゃんを見なかったかい!?)」  「I don't know. I'm going to clean the room, so please leave Herman ?  (知りません。これから掃除をしなくてはならないので、ヘルマンは出ていっていただけますか?)」  「Oh, terrible! but will do!  (ああっ、酷い! でもそうするよ!)」  ヘルマンは部屋を出ていってしまう。  「Nesio! I'm going to see Raise and Ryan's room, so you should look into the other rooms!  (ネシオ! レイズやライアンのところを見てくるから、他の部屋を頼むよ!)」  やれやれ、忙しいことだ。  「Sorry, Ena. I also have to find HELL.  (悪い、エナ。俺もヘルちゃんを探さなくてはいけないんだ。)」  「Is that so ? Then……Huh, cleaning is postponed…….  (そうなのですか。なら……はぁ、掃除は後回しですね……。)」  「If Herman finds his pet, I'll be back.  (見つかったら、また来るさ。)」    そう言って、ネシオはエナの部屋を出た。  さて……。  Eルームから出たネシオは、迷わずYルームを目指し、歩く。  《ジジッ……》《ウィーン……!》    扉を開け、中に入ると、部屋中心のベッドの上で、少年と黒い猫が仲良く眠っている姿が見えた。  「ふっ……。」  やはり、ここにいた。  ネシオは静かにベッドに近付き、二人の幸せそうな寝顔を眺めた。  よく眠っている……。  彼らの世界を壊すなど、俺にはできない。  ネシオはベッドの周りにカラーノイズを走らせ、カーテンを出現させた。これで入口からは見えない。  (Good night.(お休み。))  ネシオは心の中で小さく呟く。  このことは、しばらく内緒だ。          
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