47人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
六月の休日は、いつも雨が降る。
この季節を乗り越えたら、また夏がくる。
僕は夏が好きだ。
大きな空、心地よい夏の香り、色鮮やかな色彩。
日曜日の朝、妻が38℃の熱を出した。
娘は、いつにも増して不機嫌だ。
「えー、なんでさ……。約束したじゃない」
「ごめんねぇ」
今日は妻と娘の二人で、お台場に行く約束をしていたらしい。
娘の好きなバンドのライブ・コンサート。
数ヶ月前からチケットを購入していたようだ。
「お友達で一緒に行ってくれる子はいないかな……」
「今日の今日で、そんな暇な子いないよ!」
「そうよねぇ……」
娘の『夏希』は高校2年生になる。
僕達は夏希のことをとても大切にしてきた。
一人娘の夏希は僕たち夫婦にとっては、『いのちより大切な宝物』だった。
『夏希』が生活の中心で、
『夏希』が僕らの生きる理由になっていた。
――だけど。
いつからだろう。
彼女が不機嫌になってしまったのは。
僕のそばではいつも不機嫌で、
次第に距離が掴めなくなっていった。
夏希は僕のことが、
嫌いになってしまったのかもしれない。
僕自身も、
正直に言うと
夏希のことが少し苦手になりつつあった。
「もういいよ……。諦めるよ」
「オレが連れて行こうか」
「え?」
「ライブ中は、外で待っているから」
「なにそれ」
「いや……」
「意味不明」
確かに。
意味不明だ。
「外で待ってるなら行く意味ないじゃん」
「……まぁ。でも行きたいんだろ」
「行きたいけど」
ライブにはあまり興味がない。
でも、夏希とふたりで
会話できる機会が作れるのなら、
行ってみる価値があるかもしれない。
――そう、思った。
最初のコメントを投稿しよう!