第2話 ヴァンプ

5/7
前へ
/17ページ
次へ
 ヴァンプには、急性期を過ぎても、本能的な吸血の欲求が常に潜在している。特に、若い女性の細い首を目の前にすると、いかに教育を受けたヴァンプでも自制するのは難しい。申し送りでイレーナたちが首にカラーを巻かなければ、タチアナたち夜勤看護師はどうしても衝動に駆られてしまう。  その衝動があるため、原則としてヴァンプは健常者の生活からは隔離されたまま過ごさなければならない。とは言っても、レストランも、バーも、コンサートホール、クラブやライブハウス、スポーツジム(だが、スポーツを好むヴァンプは多くはない)が完備されており、人権を損なうような非人道的隔離施設ではない。  初期の発作期を除いて、安定期にはヴァンプ同士が噛んだり血を吸ったりすることはない。だが、擬似的にそう言ったを嗜好する男女(あるいは同性)のヴァンプカップルのため、アンダーグラウンドなクラブも存在すると言われている。彼らはお互いをと呼ぶ。  施設には教会もある。かつては、血を吸うという行為に対しての自責の念から、アンチクリストになる患者が多かった。そのため映画などではヴァンパイアが十字架を恐れるシーンがある。だが、現在ではヴァンプであることと、キリスト教は矛盾しないと考えられている。最後の晩餐で、イエス・キリストがワインを『我が血である』と言ったからだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加