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ルーマニアの山岳地帯には、数百年も昔から特異な風土病があった。かつてその患者たちは吸血鬼、ヴァンパイアと呼ばれていた。そう言った名称が差別用語であるとして、現在患者たちはヴァンプと呼ばれている。
その概要は幾多の小説や映画でお馴染みだが、そのような脚色された伝説は事実とは異なるものだった。例えば、永遠の命などと言うものは、生物学的にありえない。
イレーナとタチアナは同じ看護学校を卒業後、この病院に勤務した同期である。
1年ほど前のことだった。前の晩に救急搬送され、特別個室に入院しているヴァンプ患者をタチアナが担当していた。鎮静していたはずの患者が突然覚醒し、タチアナの首に噛みつくインシデントが発生した。
感染した当初、患者は血液を渇望する。首筋を噛み、頸動脈からほとばしる大量の動脈血を飲もうとする。被害者は出血死するか、感染するかである。だが、ヴァンプの牙が伸びるのには数週間はかかるので、初期にはまだ通常の犬歯である。タチアナの首の傷は浅く、頸動脈には達しなかった。だが、血液検査でヴァンプ抗体が検出され、タチアナは隔離された。
血液の渇望が満たされないと、ヴァンプは激しい発作を起こす。これはヘロイン中毒者の禁断症状、コールドターキーに例えられる。タチアナも暴れ、自分の腕に噛みついた。すぐに鎮静剤が投与され、輸血された。
現在では、感染者が発作性に激しく血液を渇望するのは、発症からおよそ2週間ほどであることがわかっている。その間、タチアナは特別個室に隔離され、毎日十分な輸血を受けることで、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
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