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指定された駅前で待っていると、律人が走り寄ってきた。彼の顔を見て安心している自分がいた。
「……妃美香さん!」
「ごめんね橘くん」
律人は昼間と同じ普段着のままだった。めずらしく、気まずそうに視線を逸らす。
「えーと……俺の家、行きますか?」
「うん……彼が帰ってくると思うと、あの家にはいたくなくて」
「わかりました」
事情をちゃんと説明していないにも関わらず律人は妃美香を招いてくれる。コンビニに寄って足りないものと食料を買い、律人の住んでいるというマンションの前に着いた。
律人は立ち止まり、妃美香を見つめる。
「ていうか、妃美香さんもう俺の気持ち知ってますよね」
「うん」
「家に入れたらどうなるか、わかってます……よね?」
「……うん」
子どもではない。
それに、律人も高校生ではない。
「……どうぞ」
ガチャンと妃美香の背後でドアが閉まる。
律人の目はすでに熱を持っていた。その目を見て、ぞくりと身を震わせる。
私は、ずるい。
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