段ボールは青春の香り

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 高校一年の文化祭、僕のクラスの出し物はおばけ屋敷迷路だった。大量の段ボールをつなぎ合わせて迷路を作り、さらに迷路のところどころでおばけが登場するという代物だった。  部屋全体を暗くするから大して見えないのに、段ボールのあちらこちらに血の跡や墓場の影を描くことになった。作業には意外と時間がかかり、文化祭前日もクラス総出で段ボールにアクリル絵の具で絵を描いていた。  僕が段ボールに卒塔婆を描いているところに、桜庭さんがやってきた。桜庭さんはクラスで一番、いや、学年で一番かわいい女の子だ。クラスの男子の大半が桜庭さんに惚れていると言っても過言ではない。もちろん僕もその一人だった。  僕が描いた墓地に、桜庭さんが人魂を描き始めた。オレンジ色の絵の具で次々に描き込んでいく。桜庭さんとこんなに距離が近づいたのは初めてだ。肩や腕に力が入り、顔からは汗が吹き出す。描いていた卒塔婆はぐにゃりと曲がり、慌てて上から塗り重ねる。  僕が筆を動かしているすぐ近くに、桜庭さんが人魂を描いた。その瞬間、桜庭さんの小指と僕の小指が触れ合った。
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