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僕の体は硬直した。桜庭さんは何事もなかったように僕の隣から離れ、別の場所に絵を描きに行った。
段ボールの匂いを嗅ぐたび、僕はいつでも桜庭さんを思い出す。体温が伝わりそうなほどの距離感と、触れた小指の感触。この甘酸っぱい感覚に浸りたくて、僕は段ボールの匂いのする職場を選び続けている。
「兄ちゃん、派遣なんだろう?」
休憩時間に年配の男性から声をかけられた。
「こんなにきちんと働ける若いのが正社員で働けないなんて、この国はやっぱりおかしいよなぁ」
世を憂う男性の言葉に僕は苦笑いをした。童顔なのでいつも若く見られてしまうが、僕は今年で四十歳になる。
段ボールの匂いがする職場を追い求めていたら、正社員の求人がなかっただけだ。甘い思い出の中の桜庭さんは、今では二人の子持ちだと風の噂で聞いた。
【完】匂いフェチ(段ボール)
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