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あのアンバランスな男女を見失ってから3日後、俺はまた一人で、由紀乃が亡くなった場所に来ていた。
死亡推定時刻の午前12時~4時に当たる時間。
さっき日付が変わり、1分前は昨日になっていた。
外灯が途切れて真っ暗な河川敷は川の流れだけが妙にハッキリと聞こえて、川の中へ呼ばれているようで少し気味が悪い。
「はい!」
真っ暗な闇から、やけに勇ましい声が聞こえて、思わず肩がビクッと上がった。
持ってきた懐中電灯を声がした方向に当てると、わずかに人だと分かる影が、苦しそうに全身で息をしながら、跪いている。
回りも照らす。
ギャルが、足を大きく開き、腰を落として、まるで空手の突きのような姿勢で右手を出して静止している。
この状況は?
瞬時に判断は出来なかったが、状況から推測して、「若い女性が暗闇で男に襲われそうになったが、護身術で身を守った。」と判断した。
俺は急いでギャルに駆け寄ると、声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
俺の登場に驚いた様子も無く、ギャルは荒い息をしたまま答えた。
「はい。大丈夫です。きっとちゃんと浄化されました。ねっ、瀧沢さん。」
ギャルは良く分からない事を言うと、目の前で膝を着いている男に問いかけた。
「はい。」
男は辛うじて聞こえる声で返事だけした。
と言う事は、この二人は被害者と加害者では無いのか。
そう判断すると、緊張が一気に解け、改めて二人を観察した。
今時珍しいギャルギャルしいギャル。
夜の闇に紛れ込んで、その存在が霞んで見える男。
3日前に見た、謎の関係のカップルだった。
「浄化」「瀧沢」新しく二人から発せられた言葉を由紀乃の事件と照らし合わす。
関連性は見つけられない。
「こんな時間に、ここで何をしているんですか?」
懐中電灯で女と男を交互に照らし質問する。
「浄化を。」
女が、見た目からイメージ出来ないような落ち着いた丁寧な口調で話す。
「浄化?」
宗教的儀式をイメージしながら、疑問形で聞き返す。
「失礼ですが、あなたは?」
男が立ち上がり、高い背から見下ろすように俺を見ながら、質問する。
「ここであった変死事件について調べている刑事の三浦です。」
これでこちが優勢的に質問できる。
そう思いながら、警察手帳をチラッと見せた。
「由紀乃さんの事件ですね。どういった方向で進んでるんですか?」
優勢どころか、全然効果が無い。
「それは捜査上お教えする事は出来ません。」
苛立ちを隠せない声で、ハッキリと伝える。
「そうですか。でもこれは事故でも自殺でもありません。殺人事件です。」
男がボソボソと話す声と、話す内容がかみ合わなくて、理解をするのに少し時間がかかった。
「あなた方は何を知ってるんですか?よければ署の方で話を聞かせてもらえませんか。」
怪しさが増してきた二人の情報を得ようと考えた。
「記録に残しても、捜査は難しいと思います。
俺たちが知っている事を全てお話しますから、聞いたうえで、どうするか判断して下さい。俺たちは協力は惜しみません。ね、未來ちゃん。」
「はい。犯人を捕まえて頂けるなら、いくらでも協力します。」
瀧沢と呼ばれた男と未來と呼ばれた女。
暗くて表情はハッキリと見えなかったが、声には確かな誠実さが有り、さっきまで怪しいと思っていたのに、俺はいつの間にか、二人の言葉を信じようとしていた。
「では、どこか明るい場所で。」
辺りは真っ暗で、真夜中に空いている店は、24時間営業のファミレスか、ファーストフード店しか思いつかなかった。
「出来れば他の人に聞かれたくないので、この先にある小さな東屋でもいいですか?そこなら外灯の灯りも有りますし。」
瀧沢の申し出に少し考えたが、ここに来るときにあった4人掛けが精一杯の小さな東屋は外灯のすぐ下だったことを思い出し、了承した。
「いいでしょう、ではそこで。」
3人は無言で移動すると、2対1になって座り、俺はまず二人の素性を聞いた。
男は、瀧沢彦季、21歳、大学4年生。
女は、酒井未來、20歳、大学2年生。
二人の関係は、仕事上のパートナーで、友人。
その仕事とは、成仏できなかった霊を浄化させせる「祓師」。
「あの、テレビの心霊番組とかで時々出てくる、神主さんみたいな、巫女さんみたいな感じのヤツですか?」
祓師のイメージが出来ず、思い描けたイメージを言葉にしてみたが、正解ではないようだ。
「そんなイメージで大丈夫です。」
瀧沢がボソッとそれだけ言うと、未來がもう少し詳しく説明してくれた。
瀧沢は幽霊を身体に取り込み浄化することにより祓うらしいが、今は修行中のため、完全に浄化するには未來の手が必要らしい。そこで、今は二人で仕事をしているそうだ。
一通り聞いても、理解できる気がしないが、話が先に進まないので、二人の仕事内容を説明してもらうのはこれくらいにした。
二人は由紀乃の事件について知っている事を全て話してくれたが、それを全て信じられるほど、俺は純粋では無く、でも、全て否定できるほど腐ってはいないようで、信じられない気持ちと検証したい衝動で、心と頭の中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。
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