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信子は小さなアパートの一室で、甘い紅茶を飲みながら寛いでいる。
幼い頃から何十年も暮らしてきた思い出の家は、結婚する時に売ってしまった。
古い家だったが、父親が拘って建てた立派な家だったので、それなりの高値で売れた。
結婚生活は数ヶ月で終わり、パートも辞めてしまっていた自分がこれからどうやって生活をしていくか不安だったが、家を売った金や自分が今までに蓄えてきた資産は全て手に残ったため、贅沢をしなければこれからの生活に困る事はないだろう。
窓を開けると、春の冷たい空気が頬に当たって心地よい。桜はまだ咲かないが、空気がすっかりと春の匂いだ。
外では近所の子供達が自転車に乗って遊んでいる。
春休みなのだろう。
自分にもあんな頃があった。
何となく窓から外を覗くと、1人の子供の母親が、買い物に行くからと迎えに来た。
子供はまだ遊びたいと駄々をこねている。
根気よく帰ろうと説得する母親と、何とか遊び続けようとする子供。
自分には全く関係のない光景だ。
自分はあと何年生き続けるのだろうか。
考えるとうんざりし、疲れてしまう。
これからはもう、波風立てず平穏に暮らしてこう。
信子はそう心に近い、残った紅茶を飲み干す。
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