第一章

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リコは今、オフィス兼自宅で占いサイトの更新作業を行っている。 東京へ引っ越してきて一年半、この町での暮らしにもようやく慣れてきた。 引っ越す前のオフィスは、自分の好み通りに改装した部屋だったので出て行くのが憚られたが、これからの自分の居場所もまた自分好みに変えていけばいいと思い直し、思い切って引き払った。 元々ネットでの遠隔占いを仕事としてきた為、住む場所はどこでも良い。 リコの占いは評判で、常に固定客の予約が入っている。 前に暮らしていた街では直接会って占う事もしていたが、東京ではしないことにした。どんな客が来るか分からないし、占いを進めていくうちに情が移ってしまうことがあるからだ。 「さて、おしまい。」 作業を終えてハーブティーを入れ一息つく。 リコは、大きくなった自分のお腹をさする。 予定通り行けば、3ヶ月後には赤ん坊が生まれるのだ。 約二年前、お腹の子供の父親である男と初めて出会った。 自分の恋愛運を占って欲しいとやってきた。 自分よりも少し年上の彼は、現在好きな人がいるわけではないが、いずれは結婚したいと思っていると言った。 リコの占いの得意分野は恋愛で、結婚相談所に依頼して案内のチラシを配布してもらっていた。 そのチラシを見て占いにやってくる人も多く、男性客も珍しくなかった。 彼もチラシを見て占いにやってきた。 そして何度か占っていくうちに、見事に情が移った。
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