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職場は車で15分程の郊外にあり、広くて無料の駐車場がある。
銀行員として働いていた頃は自分で駐車場を借りなければならず、結構な出費だった。
弁当の入ったカバンを持ち、信子は職場の玄関に向かう。
ここ半年、出勤の日は毎日しているようにロッカールームでエプロンをつける。
「江東さん、いつも綺麗にしてますよね。髪の毛とかもすごくお手入れされてるって感じ。私なんて育児に追われて自分は後回しだからすごく羨ましい。」
不意に、自分よりも年下の同僚に声をかけられる。
声をかけられた事に驚いて話しかけた本人の顔を見ると、化粧気のない顔をして、懸命に髪を後ろに一つで結ぼうとしているところだった。
寝起きのまま、髪の毛もそのまま来たのだろう。気の毒なほどみすぼらしく見えた。
「私は、自由な時間が多いから。」
信子が小さな声でつぶやくと
「小島さーん、おはよう。」
と別の同僚が彼女に声をかけた。彼女との会話はそこで途切れた。
慌ただしくロッカールームを出ていく2人を見送り、信子は1人思う。
自分に手をかける余裕がある自分と、髪もボサボサのまま出勤してくる母親。
一体どちらが幸せだろうか。
人の価値観によって、何が幸せか全く違うことはわかっている。
家族がいても苦労ばかりしている女もいれば、1人でいて充実した人生を送る女もいる。
今の信子には、ノーメークでボサボサの髪を後ろに引っ詰めている小島が眩しく見えた。
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