第一章

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信子は、男女に関わらず、若い部下が結婚するたびに自分が仕返しをされているような気がした。同僚の目も、彼女を憐れんでいるように見えた。 いい歳をして平社員でいても、仕事しかない信子より、家庭のある自分の方がマシだと安心しているような気がした。 自分の思い過ごしだろうか。 いや、そんな事はないと思う。 人間はいつだって人と自分を比較し、自分が他人に不足しているものを得ている事に安堵して生きているのだ。 信子の場合は、自分のキャリアがそれだった。自分には責任のある仕事がある、それによって収入を得ている。 そうやって肩肘を張って生きてきた。 だが、どれもこれも昔のことだ。 信子は、ミルクと砂糖をたっぷりと入れた甘いコーヒーを飲みながら、数冊ある雑誌をめくる。どれも占いの本で、暇さえあれば占い専門の雑誌やインターネットの占いサイトを閲覧している。 目下、注目するのは恋愛運だ。 現役で仕事をしていた時は、占いなど馬鹿馬鹿しいと思っていた。 何でも自分で判断し、実行してきた。そこら辺の無能なくせに役席についている男性よりも、自分の判断の方が正しいと信じて実行してきたし、それでミスをしたことはほとんど無かった。 だが今は。 全てを自分でこなすことに疲れてしまった。誰かに寄り掛かりたい。 占いは、そんな信子の考えを少しだけ埋めてくれた。 少し先の自分の運命を教えてくれるだけでなく、ラッキーアイテムまで教えてくれるのだ。 今日着ている茶色のワンピースも、今飲んでいる甘いコーヒーも、ラッキーアイテムなのだ。 信子は今、一つの占いに気を取られている。 ー 今年中に、人生で大一番の出会いがあるでしょう。この好機を絶対に逃さないためにも、マッチングアプリなんかに登録してみるのもいいかもしれません ー 信子は、母を亡くしたことにより、ある一つの思いが身体中を巡っていた。 「カゾクガホシイ」 マッチングアプリ。自分にはネットを駆使することは難しそうに思えた。 信子は色々と情報を集め、結婚相談所に出向くことに決めた。 人生で大一番の出会いを逃さないために。
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