第一章

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帰りの道すがら、信子は上の空だった。 今までの自分の人生を思い返す。 バリバリと仕事をして母と自分の生活を支え、次のステージに立ちたくて50歳を超えてからパートナーを探し始めた。 いくらエステに行っても、男性とデートをしてみても、自分の中身は空っぽだ。 この世の中に、自分と同じ思いをしている女性がいったい何人いるだろう。 ふと、母のところに行きたいと思った。 その時、車の前を自転車が横切った。 慌ててブレーキを踏む。 間一髪のところで衝突は免れた。 信子は全身が震えるのを感じる。 衝突はしなかったが、自転車に乗っていた人間は転んでいる。 安全を確認しなくてはならない。 「あの、大丈夫ですか。」 震える声で尋ねる信子を無視し、当人は落としたスマホを拾い上げると再び自転車に乗って行ってしまった。 おそらく男子高校生だろう。スマホを見ながら飛び出した自分に非があるという自覚があったのかもしれない。 全身から汗が噴き出るのを感じながら、何とか車を発進させる。 自分の精神が、ズタズタになるのを感じた。 もう限界かもしれない。 明日はパートを休もう。 そう考えながら信子は何とか自宅にたどり着く。
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